Story 26

 

王宮地下。

暗くじめじめした空間を駆け抜けるルーパス。

大小さまざまな無数の配管を飛び越え、くぐり抜け、先を急ぐ。

 

細い管につまづき、身体が投げ出される。

身体を床にたたきつけられ、全身ずぶぬれで天井を仰ぐ。

思えばドラコとの闘いから休みなく走りっぱなし。

流石のルーパスでも体力の限界だ。

ルーパス「…また、姫を、守れなかった…。」

無念そうにつぶやく。

 

キャンサー「…そんなことないよ。」

キャンサーとフェニックスがのぞき込む。

キャンサー「…追いかければ、まだきっと間に合うよ。がんばろ。」

フェニックス「ったく、こんなところに寝ころびやがって。ずぶ濡れじゃねえか。」

二人に差し出された手を取り、立ち上がる。

ルーパス「…ありがとう。僕、行かなきゃ。…一緒に来てくれる?」

キャンサー「もちろん…!」

フェニックス「早く帰りたいからさっさと済ませるぞ。」

 

先を急ぐ三人。

でも、キャンサーにはどうしても気になることがあるらしい。

キャンサー「ルーパスくん、さっきの…『また姫を守れなかった』ってどういう意味…?」

フェニックスに背負われているルーパスへ質問を投げかける。

フェニックス「口ぐらい動くだろ。答えてやれ。」

フェニックスも促す。

フェニックス「お前が王宮を追い出されたのと関係があるんだろ? 興味がある。」

キャンサー「…え、追い出されたの!?」

ルーパス「…いや、まあ、そういうことになるんだろうけど…、」

話はこんな感じ。

 

ルーパスがキャンサーたちと出会う前のこと。

幼いながら王宮に住みこみ、お姫様の護衛を任されていた。

アンドロメダ姫とは年も近く、よく一緒に王宮の庭なんかで遊んでいた。

ある日、二人は例の抜け道からこっそり王宮を抜けだした。

外の世界を見てみたい、という姫の願いを叶えてあげようと連れ出したのだ。

しかし、二人は野生のモンスターに襲われてしまう。

パニックに陥ったルーパスは能力で大きな獣に変身。

モンスターを追い払ったものの、姫にも牙をむいてしまう。

暴走したルーパスは姫が魔法で撃退、ケガも魔法ですぐに回復したのだが、

二人が勝手に王宮を抜けだしたことは皆の知るところに。

ルーパスへの、特に衛兵仲間からの風辺りが強くなってしまった。

そんな中、ルーパスとともに姫の護衛を務めていたパーシアスがルーパスを呼び出す。

姫を勝手に連れ出した上、あろうことか傷を負わせた。

それはお前が弱いからだ。

弱いやつは必要ない。

俺と戦って負けたら王宮から出て行け、ということだった。

そして、姫の見ている前で、負けた。

 

ルーパス「…とまあ、こんな情けない話ってわけだよ。」

キャンサー「…ルーパスくん…。」

フェニックス「それで特訓に明け暮れていたのか。強くなってあいつを見返してやりたい、と。」

ルーパスは首を横に振る。

ルーパス「それもあるけど、一番は、強くなって、また姫の元に戻りたいんだ。」

キャンサー「…ルーパスくん…!」

ルーパス「あ、ここで止まって。金庫への隠し通路はあのハンドルを回すと出てくるんだ。」

少しだけ元気を取り戻したルーパスは、フェニックスの背から飛び降りる。

ガスや水道の栓に偽装されたハンドルをキュッとひねると床が動いて、さらに地下深くへと続く階段が現れる。

キャンサー「…すごい…! よく知ってるね…。」

ルーパス「王宮を抜けだしたくなるほど、隅々まで遊びつくしたからね。さてと、」

床にぽっかり空いた闇に耳を傾ける。

ルーパス「やつらの声が聞こえる。まだこの奥にいる。」

三人は闇を見つめ、

ルーパスが先陣を切って、降りて行った。

 

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