Story 31

 

 

キャンサーの前に現れたのは一人の少年。

肌寒い洞窟でも暖かそうなぶかっとした服装で、

腰の後ろには大きな望遠鏡を携えている。

???「お前さん、ここの囚人ではないな。新入りか? それとも迷い込んだのか?」

キャンサー「…え、え? ん…迷い込み、ました…、…?」

訝しがる少年。

???「お前さん、何か怪しいな。」

キャンサー「…えっ、えっ、ベ、別にあやしいものでは…」

目を細める。

疑いのまなざし。

 

???「やはり怪しい、様子を探ってみるか。」

そう言うと、彼は両手を万歳のように掲げた。

するとキャンサーの周りにぽつぽつと光が現れた。

石の蛍光色とは違う、青っぽい光だ。

よく見ると、光の中心にとがった岩石が見える。

???「流星群!」

宙に浮く岩石たちが一斉にキャンサーを目がけて迫ってくる。

キャンサー「ぴゃー!」

逃げ惑うキャンサー。

キャンサー「…うう、なんで、なんでこんな目に…。」

今日はとことんツイてない。

なんか涙出てきた。

 

半泣きで走り回ってなんとか逃げ延び、牢屋の一つに身を隠した。

体育座り。

???「お前さん。」

キャンサー「ひゃうっ!?」

少年が申し訳なさそうな顔でこちらをのぞき込む。

???「いやあ、その、悪かったよ、突然襲ったりして。」

キャンサー「…ぇぐ、あ、いえ、お気になさらず…。」

???「僕はメシウム。監視者メシエ座のクストス・メシウムだ。長いから覚えなくていい。」

キャンサー「かんしゃしゃ…めす…し…、…はい。」

メシウム「とりあえず、ここにいるのもなんだから、みんなのところへ行こう。」

キャンサー「…みんな?」

 

キャンサーが連れてこられたのは、巨人でも収容していたのだろうかという程の特別大きな牢屋。

メシウム「やあ、みんな、戻ったよ。」

大きな扉の破壊された入り口から中へ。

自由に出入りできる牢の中に居る者十数。

猫やふくろう、ガチョウのような姿をしたものから、やはり、よく分からない奇天烈な姿の物もいる。

そのくつろぎっぷり、和気あいあいぶりから察するに、

どうやら皆ここで長く暮らしているようだ。

 

キャンサー「…えっと、ここは一体どこなのでしょうか?」

核心に迫る質問。

メシウム「ここはね、聞いたこともあるだろう、地底監獄『奈落の底』だ。」

息をのむキャンサー。

監獄。監獄ってことは、

キャンサー「…み、皆さん、悪い人…?」

一同爆笑。

キョドるキャンサー。

メシウム「まあね、でも今はみんなで仲良くやっているよ。」

キャンサー「…?」

「本当の極悪人は食料も何もかも独り占めしようとする。」

「でも、オレたちの協調性には一人で勝てっこないんだよ。」

「反省したヤツはみんなと協力するようになるし、そうでないやつは一人で凍えながら野垂れ死にだ。」

「だから、こんな風にほったらかしにされていても、協調せざるを得ないわけだ。」

キャンサー「なるほどぉ…。」

感心。

とりあえずみんな、前科はあるけど、今は悪い人たちではなさそう。

 

メシウム「ところでキャンサーはどうして奈落の底へ? 罪を犯して送り込まれたわけではなさそうだが。」

キャンサー「あ、えーっと、…それがよく思い出せないんです。」

と、ここでハッと思い出す。

キャンサー「そうだ、地上が、地上が大変なことに。戻らなきゃ…ルーパスくんたち大丈夫かな…。」

メシウム「地上に戻りたいのかい?」

キャンサー「…はい! でも…」

メシウム「そういうことなら、ついておいで。」

キャンサー「…え、戻れるの…?」

 

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