キャンサーの前に現れたのは一人の少年。 肌寒い洞窟でも暖かそうなぶかっとした服装で、 腰の後ろには大きな望遠鏡を携えている。 ???「お前さん、ここの囚人ではないな。新入りか? それとも迷い込んだのか?」 キャンサー「…え、え? ん…迷い込み、ました…、…?」 訝しがる少年。 ???「お前さん、何か怪しいな。」 キャンサー「…えっ、えっ、ベ、別にあやしいものでは…」 目を細める。 疑いのまなざし。
???「やはり怪しい、様子を探ってみるか。」 そう言うと、彼は両手を万歳のように掲げた。 するとキャンサーの周りにぽつぽつと光が現れた。 石の蛍光色とは違う、青っぽい光だ。 よく見ると、光の中心にとがった岩石が見える。 ???「流星群!」 宙に浮く岩石たちが一斉にキャンサーを目がけて迫ってくる。 キャンサー「ぴゃー!」 逃げ惑うキャンサー。 キャンサー「…うう、なんで、なんでこんな目に…。」 今日はとことんツイてない。 なんか涙出てきた。
半泣きで走り回ってなんとか逃げ延び、牢屋の一つに身を隠した。 体育座り。 ???「お前さん。」 キャンサー「ひゃうっ!?」 少年が申し訳なさそうな顔でこちらをのぞき込む。 ???「いやあ、その、悪かったよ、突然襲ったりして。」 キャンサー「…ぇぐ、あ、いえ、お気になさらず…。」 ???「僕はメシウム。監視者メシエ座のクストス・メシウムだ。長いから覚えなくていい。」 キャンサー「かんしゃしゃ…めす…し…、…はい。」 メシウム「とりあえず、ここにいるのもなんだから、みんなのところへ行こう。」 キャンサー「…みんな?」
キャンサーが連れてこられたのは、巨人でも収容していたのだろうかという程の特別大きな牢屋。 メシウム「やあ、みんな、戻ったよ。」 大きな扉の破壊された入り口から中へ。 自由に出入りできる牢の中に居る者十数。 猫やふくろう、ガチョウのような姿をしたものから、やはり、よく分からない奇天烈な姿の物もいる。 そのくつろぎっぷり、和気あいあいぶりから察するに、 どうやら皆ここで長く暮らしているようだ。
キャンサー「…えっと、ここは一体どこなのでしょうか?」 核心に迫る質問。 メシウム「ここはね、聞いたこともあるだろう、地底監獄『奈落の底』だ。」 息をのむキャンサー。 監獄。監獄ってことは、 キャンサー「…み、皆さん、悪い人…?」 一同爆笑。 キョドるキャンサー。 メシウム「まあね、でも今はみんなで仲良くやっているよ。」 キャンサー「…?」 「本当の極悪人は食料も何もかも独り占めしようとする。」 「でも、オレたちの協調性には一人で勝てっこないんだよ。」 「反省したヤツはみんなと協力するようになるし、そうでないやつは一人で凍えながら野垂れ死にだ。」 「だから、こんな風にほったらかしにされていても、協調せざるを得ないわけだ。」 キャンサー「なるほどぉ…。」 感心。 とりあえずみんな、前科はあるけど、今は悪い人たちではなさそう。
メシウム「ところでキャンサーはどうして奈落の底へ? 罪を犯して送り込まれたわけではなさそうだが。」 キャンサー「あ、えーっと、…それがよく思い出せないんです。」 と、ここでハッと思い出す。 キャンサー「そうだ、地上が、地上が大変なことに。戻らなきゃ…ルーパスくんたち大丈夫かな…。」 メシウム「地上に戻りたいのかい?」 キャンサー「…はい! でも…」 メシウム「そういうことなら、ついておいで。」 キャンサー「…え、戻れるの…?」 |