Story 32

 

ルーパスは目を覚ました。

身体が少しだるい。

暖かい陽気に、真っ白で気持ちの良いシーツ。

王宮の医務室だ。

懐かしいな、姫様を連れて無茶したときも目覚めるとこの天井を見上げて…―

 

ルーパス「キャンサーちゃん!!」

飛び起きた。

フェニックス「やかましいな、突然どうした。」

ベッドのわきで椅子に腰かけていたフェニックスは不機嫌そうに反応する。

とにかくルーパスは居ても立っても居られない。

ルーパス「フェニックス、たいへん、たいへんなんだ! キャンサーが、キャンサーちゃんが!」

フェニックス「分かったから、一旦落ちつけ。」

ルーパス「これが、落ち着いていられるもんか! キャンサーちゃんが、落とされて、奈落の底に…」

フェニックス「そこら辺の話は姫から聞いている。ともかく落ち着け。」

ルーパス「君は…! どうしてそうも平気でいられるんだ!? 大切な、友達なんだよ!?」

フェニックス「その大切な友達とやらを危険な目に合わせたのは誰だ?」

ルーパス「…!」

フェニックス「まあ、あいつは説得して止まるような奴でもないが、全ての言い出しっぺはお前だ。」

ルーパス「…そ、それは…。」

フェニックス「全く、何も変わってないんじゃないのか? 例の件から。」

ルーパス「…。」

押し黙ってしまった。

フェニックスはそんな彼を一瞥して部屋を後にした。

ルーパス「…僕は…また…。」

一人残されたルーパスは、ベッドの上でしばらくうつむいたままだった。

 

王宮の庭。

すでにマントムたちの姿はない。

ベンチに腰かけ、何かつぶやいているフェニックス。

フェニックス「…俺としたことが…冷静さを欠いていた…。」

フェニックス「任務だけ与えられても、ヤツが何をしようとしているのか…結局分からずじまいだ。」

フェニックス「…わざとはぐらかしたのか…? …なぜ俺は蚊帳の外なんだ…?」

フェニックス「あのキリン野郎…次会ったら全部聞き出してやる…。」

ご立腹の様子。

ところで、そんな独り言、誰かに聞かれたらまずいのでは…

 

アラ「やあ、さっきから何をブツブツ言っているんだい?」

フェニックス「なっ、て、てめえっ、何故ここに!?」

突然話しかけられ激しく動揺するフェニックス。

アラは腰に手を当て、フェニックスの頭上1メートルほどから見下ろしている。

アラ「ははは、ちょっぴりキミたちの魂を味見…じゃなかった。顔を見たくなってね。」

フェニックス「…会場の方はどうなった。」

アラ「うん、マントムは全員いなくなってたよ。きれいさっぱり。」

フェニックス「…そうか。」

アラ「昏睡状態にされた人たちも皆目を覚ました。まる二日は寝てたかな?」

フェニックス「…。」

アラ「だがしかし、ちょっぴり…いや、かなり気になることがあってねぇ。」

アラはターンしながらフェニックスの目線まで下りてきて、決めポーズ。

フェニックス「もったいぶらずに言え。」

アラ「うしくんと魔女っ子ちゃん、それにヤギさんの姿がどこにも見えないんだ。」

フェニックス「…それは、実行委員の星宮のヤツらか。」

アラ「そうそう。ボクは魂を見ることが出来るから隠れんぼしていてもすぐに居場所は分かるはずなんだけど…」

決めポ。

アラ「少なくとも、会場からはいなくなってる。どこ行っちゃったんだろうねぇ。」

フェニックス「王宮を襲撃したやつらの中に、瞬間移動する奴がいた。そいつに拉致されたのかもな。」

アラ「なるほど、それなら説明がつくね。」

フェニックス「秘宝のことを合わせて考えると、星宮どものエレメンタルパワーを抜き取るつもりか…?」

アラ「秘宝っていうのは『エーテルストーン』のことだね。盗まれたそうじゃないか。」

フェニックス「ああ、お姫さまから聞いた話によれば、他人の力を奪う秘宝だそうだ。」

 

アラ「で、これからどうするんだい? キミたちは。」

フェニックス「バカ言え。ルーパスはあんなだし、キャンサーは…。これ以上危険に首を突っ込みたくはない。」

アラ「カニちゃんなら生きてるよ。」

フェニックス「…何っ、どうしてそれを。」

アラ「本当か!、ではなく、どうして、なんだね。」

フェニックス「…っ!」

アラ「ボクがさらっと口にした”マントム”という言葉に聞き覚えがあるのは、どうしてかな?」

フェニックス「…。」

アラ「ふふふ、何か隠しごとをしているみたいだね。」

フェニックス「…。」

アラ「聞き出してもいいが、彼らには黙っておいてあげるよ。面白そうだし。」

フェニックス(…コイツ、油断ならん…いや、まだ俺が冷静になり切れていないだけか…くっ。)

フェニックス「…それで、キャンサーは、どうなんだ。」

 

一方、

キャンサーはトロッコに乗って暗闇を爆走していた。

キャンサー「ふにゃあ~! こんなのでほんとに帰れるの~っ!?」

暗いのでレールが見えず、行き先がわからない。スリル満点。

地上へ帰りたいと聞いたメシウムは、キャンサーをトロッコまで案内。

そのままトロッコにキャンサーを乗らせ、勝手に走らせてしまったのだ。

キャンサー「ふええ、地上に帰りたいのに、くだって行っちゃうよ~!!」

動力のないトロッコなので当然、下り坂を進むばかり。

 

…と?

キャンサー「あれ、光?」

前方に鮮烈に光る白い点が。

光は少しずつ大きくなって、

眩しさにキャンサーが目を瞑った次の瞬間、

キャンサー「うぎゃっ」

トロッコから投げ出された。

キャンサー「…ういててて。」

光に目が慣れてきて、あたりを見回すと砂浜。海辺。

振り向くと見上げるばかりの巨大な断崖。

岩壁に空いた真っ黒な穴が、キャンサーの走ってきたトンネルらしい。

大会会場も王宮も、今まで冒険してきた地は、海抜数百メートルの陸地だったのだ。

しかし地理にはあまり明るくないキャンサー。

キャンサー「…えっと、どういうこと…、地上に出れたってことでいいのかな…。」

ざざ~ん、と波の音。

キャンサー「…本当に今日は散々な目にあったよ…ところでここどこ。」

 

アラ「やっほ~!」

キャンサー「…アラちゃん!?」

フェニックス「…。」

キャンサー「…フェニックスくん!」

ルーパス「うわああーっ! キャンサーちゃーん!」

キャンサー「ルーパスく、むぎゃ」

全力疾走の勢いのまま飛びつくルーパス。相手を間違えると訴えられるぞ。

キャンサー「る、ルーパスくん、落ち着いて…。」

ルーパス「ううぇええ、よかったよおおお。」

こらこらルーパス、キャンサー苦しそう。

キャンサー「フェニックス君も、来てくれたんだね。」

フェニックスはキャンサーの視線から目をそらす。

キャンサー「…?」

 

アラ「さてさて、キミたち注目。」

離れて様子を見ていたアラが話を切り出す。

鎮まる二人。(フェニックスは元から静かだ。)

ごくり。

アラ「僕はこれから”大宮殿”へと向かう腹積もりだ。」

ルーパス「だいきゅーでん…?」

キャンサー「星宮の人たちが集まる一番大きな宮殿だよ。」

ルーパス「ああ! あれね、あれあれ…。」

アラ「どうやら星宮たちが狙われているみたいだからね。助太刀に参上するってわけさ。」

ここでキャンサーがはっ、と気づく。

キャンサー「じゃ、じゃあ、お兄ちゃんも狙われてるってこと…?」

アラ「確証はないけどね。ちなみに彼は今、大宮殿で一連の事件について対策を練っているみたいだ。」

キャンサーは決心した。

キャンサー「…私、アラちゃんについていく…! お兄ちゃんを、みんなを守らなきゃ…!」

ルーパス「ぼ、僕も! 今度こそ、今度こそ…。」

アラ「…だそうだよ、君ももちろん来てくれるよね?」

アラはわざとらしくフェニックスの方へ振り向く。

フェニックス「…。」

ノーリアクション。

アラ「やあ、心清らかな焼き鳥君もついてきてくれるみたいだ。ヨカッタネー。」

フェニックス「…。」

 

かくして、彼らの次の行き先は大宮殿と相なった。

 

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