Story 33

 

海岸を走る一台の馬車。

その窓から顔をのぞかせ、爽やかな潮風にあたる少女。

キラキラと輝く海をうっとりと見つめながら彼女はつぶやいた。

キャンサー「…ヒマぁ。」

 

少し時を遡って。

アラは合流したキャンサーたちに提案を持ち掛けた。

抜粋すると、おおむねこんな感じ。

謎の悪の集団は星宮たちを狙っている。

次のターゲットはおそらく、星宮たちの集う『大宮殿』のはずだ。

知り合いに大宮殿までの馬車を頼んでいるけれど、乗るよね?

てなわけで、今に至る。

 

キャンサー「…うう、なにもすることがないよお。」

ついに耐えかねて暇を嘆くキャンサー。

ルーパス「うん、こんな一刻を争うときに何もできないなんて…。」

ヒマとか言いちゃったのが少し恥ずかしいキャンサー。

キャンサー「…え、えと、それで、あとどのくらいで着くのかな…?」

アラが太陽の位置をちらりと確認して答える。

アラ「明日のお昼頃ぐらいかな。お馬さんたちの休憩もしなくちゃだからね。」

キャンサー「…結構遠いんだね…。」

沈黙。

何か話題はないかな。

 

キャンサー「…えっと、アラちゃんって、星宮とか、いろいろ詳しいよね…。」

アラ「おっと、世の中には触れてはいけないセカイがあるものだよ。」

キャンサー「…そっか…。」

沈黙。

 

キャンサー「…そうだ、奈落の底でね、いろんな人と会ったよ。みんな優しくてびっくりしちゃった。」

アラ「…えーと、…実はあそこは今は使われてないんだよね。」

キャンサー「ん。」

アラ「今でも聞き分けのない子供に、奈落の底に連れてかれるぞ~、なんて脅すこともあるけど。」

キャンサー「…うん。」

アラ「大規模な火事で死人がたくさん出てね、それ以来封鎖されてるんだけど、…本当に人がいたのかい?」

キャンサー「……え。…じゃあ、あの人たちって、お、おば……。」

沈黙。

 

ルーパス「…! あれは!?」

キャンサーとアラは窓から乗り出してルーパスが指さすものを見る。

アラ「間違いない、マントムだ。まさかこんなところにまで。」

いろんな意味で居ても立っても居られないキャンサー。

キャンサー「むおー! ここは私にまかせろー!」

馬車の天井に飛び乗り泡乱射。

しかし、倒しても倒してもマントム無限沸き。

ルーパス「き、きりがない…。」

アラ「しかも向こうの方向から迎えうって来るということは、すでに大宮殿が攻撃されているのかもしれない。」

キャンサー「そんな…! 」

 

夕日も沈むころ。

キャンサーは泡を吐きすぎてふらふら。

キャンサー「…ふぇ、もう無理…おぇっぷ。」

ルーパス「別のもの吐かないでね。フェニックス君、代わりできる?」

フェニックス「…分かった。」

マントムへの迎撃を交代しつつ崖の坂道を登る。

崖のてっぺんまで来る頃には、あたり数メートル先もろくに見えないほどの暗さに。

アラ「日も沈んだしお馬さんの休憩タイムだ。」

マントムに見つからないよう馬車を岩陰に止める。

 

アラ「紹介が遅れたね。彼が馭者座のオーライガくんだ。」

超今更になって馭者(ぎょしゃ。車で言う運転手のこと)の紹介を始めた。

オーライガ「馬たちを休ませてやりたい。あまり騒ぐんじゃないぞ。」

ちょっぴり気難しそうな方ですね。

アラ「心配いらないさ、彼らはこう見えても結構しっかりしていて」

オーライガ「お前に言ったつもりだったんだがな。」

アラ「んなっ、君はまたボクに向かってそんな不敬な態度をー!」

オーライガ「だから静かにしろと言っているんだ…。」

 

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