海岸を走る一台の馬車。 その窓から顔をのぞかせ、爽やかな潮風にあたる少女。 キラキラと輝く海をうっとりと見つめながら彼女はつぶやいた。 キャンサー「…ヒマぁ。」
少し時を遡って。 アラは合流したキャンサーたちに提案を持ち掛けた。 抜粋すると、おおむねこんな感じ。 謎の悪の集団は星宮たちを狙っている。 次のターゲットはおそらく、星宮たちの集う『大宮殿』のはずだ。 知り合いに大宮殿までの馬車を頼んでいるけれど、乗るよね? てなわけで、今に至る。
キャンサー「…うう、なにもすることがないよお。」 ついに耐えかねて暇を嘆くキャンサー。 ルーパス「うん、こんな一刻を争うときに何もできないなんて…。」 ヒマとか言いちゃったのが少し恥ずかしいキャンサー。 キャンサー「…え、えと、それで、あとどのくらいで着くのかな…?」 アラが太陽の位置をちらりと確認して答える。 アラ「明日のお昼頃ぐらいかな。お馬さんたちの休憩もしなくちゃだからね。」 キャンサー「…結構遠いんだね…。」 沈黙。 何か話題はないかな。
キャンサー「…えっと、アラちゃんって、星宮とか、いろいろ詳しいよね…。」 アラ「おっと、世の中には触れてはいけないセカイがあるものだよ。」 キャンサー「…そっか…。」 沈黙。
キャンサー「…そうだ、奈落の底でね、いろんな人と会ったよ。みんな優しくてびっくりしちゃった。」 アラ「…えーと、…実はあそこは今は使われてないんだよね。」 キャンサー「ん。」 アラ「今でも聞き分けのない子供に、奈落の底に連れてかれるぞ~、なんて脅すこともあるけど。」 キャンサー「…うん。」 アラ「大規模な火事で死人がたくさん出てね、それ以来封鎖されてるんだけど、…本当に人がいたのかい?」 キャンサー「……え。…じゃあ、あの人たちって、お、おば……。」 沈黙。
ルーパス「…! あれは!?」 キャンサーとアラは窓から乗り出してルーパスが指さすものを見る。 アラ「間違いない、マントムだ。まさかこんなところにまで。」 いろんな意味で居ても立っても居られないキャンサー。 キャンサー「むおー! ここは私にまかせろー!」 馬車の天井に飛び乗り泡乱射。 しかし、倒しても倒してもマントム無限沸き。 ルーパス「き、きりがない…。」 アラ「しかも向こうの方向から迎えうって来るということは、すでに大宮殿が攻撃されているのかもしれない。」 キャンサー「そんな…! 」
夕日も沈むころ。 キャンサーは泡を吐きすぎてふらふら。 キャンサー「…ふぇ、もう無理…おぇっぷ。」 ルーパス「別のもの吐かないでね。フェニックス君、代わりできる?」 フェニックス「…分かった。」 マントムへの迎撃を交代しつつ崖の坂道を登る。 崖のてっぺんまで来る頃には、あたり数メートル先もろくに見えないほどの暗さに。 アラ「日も沈んだしお馬さんの休憩タイムだ。」 マントムに見つからないよう馬車を岩陰に止める。
アラ「紹介が遅れたね。彼が馭者座のオーライガくんだ。」 超今更になって馭者(ぎょしゃ。車で言う運転手のこと)の紹介を始めた。 オーライガ「馬たちを休ませてやりたい。あまり騒ぐんじゃないぞ。」 ちょっぴり気難しそうな方ですね。 アラ「心配いらないさ、彼らはこう見えても結構しっかりしていて」 オーライガ「お前に言ったつもりだったんだがな。」 アラ「んなっ、君はまたボクに向かってそんな不敬な態度をー!」 オーライガ「だから静かにしろと言っているんだ…。」 |