ホロロギウムは気を取り戻した。 視界が揺れ、洞窟を進んでいる。 ホロロギウムは柱時計。自分の力では一歩も歩くことはできないはずだ。 キャンサー「…あ、気が付きました…?」 彼はここで初めて、先ほど自分を襲ってきたカニっぽい少女に運ばれていることに気付いた。 ホロロギウム「…君、…いきなり殴りかかってくるとはどういうことかね……どういうことなのかね…。」 キャンサー「…その、さっきのことは、ごめんなさい…、…でも」 キャンサーは立ち止まる。 キャンサー「…今は同じ道を何度も通ったりしないんです…。」
少女は柱時計をハサミで背中に担いでいる。 その重さを考えると、このカニハサミのツインテールはなかなかの怪力を持つようだ。
ホロロギウム「…なるほど、たしかに力の暴走が止んでいる……止んでいるようだ…。」 キャンサー「…暴走?」 歩きながら話を聞いてみる。 ホロロギウム「…私は今朝、目覚めるとこの山にいた……。」 キャンサー「…。」 ホロロギウム「…しかし、何度時を巡ろうともこの場所から動けない……動けなかった…。」 キャンサー「……はぁ。」 ホロロギウム「…数日程たって気づいた……気づいてしまった…。」 キャンサー「…、……?」 ホロロギウム「…能力の制御が効かないのだ……周りの時間だけが狂っていく……狂ってしまっていく…。」 ホロロギウム「…自分の時間が変えられない…何年旅しようと望む時間に到達しない……到達できない…。」 キャンサー「…???」 ホロロギウム「…何十年と繰り返したところで…ついに君が現れた……現れてしまった…。」 キャンサー「??????」 ホロロギウム「…君が現れなければ無限の試行に陥っていた……陥ってしまっていた…。」 キャンサー「……な、なんだかよくわからないけど、大変だったんだね…。」 ホロロギウム「…そのことについては感謝しなければならない………しかしいきなり殴りかかって来るのは」 キャンサー「ああうっ…ほんとにごめんなさいっ……悪い人なのかと思っちゃって…。」 キャンサー「…でも、なんでホロロギウムさんは能力が暴走しちゃったんだろう…?」
洞窟を抜けた。 崖の下にはキャンサーの目的地である森が見える。 巨大な針葉樹達の頭は白く染まっている。 キャンサーは担いでいた時計を地面に降ろした。 キャンサー「うう…ちょっぴり寒いな……。」 ホロロギウム「…ここまで運んできてくれたことは感謝する…それではまた。」 振り返ると キャンサー「…あれ?ホロロギウム…さん……?」 そこにはすでに彼の姿はなかった。
キャンサー「…ようし。」 キャンサーは崖を降り、森の中へ。 この森の奥にキャンサーの友達の一人が住んでいるのだ。 キャンサー「…いつもあんな険しい山道通って来てくれてたんだね…たまには私の方から会いに行こう…。」 そんなこと思いつつ、森の奥へ歩みを進める。 |